BGP パス属性について

BGP パス属性について

• BGP パス属性
  
  IGPではルートの評価基準としてメトリック(コスト)が使用されるが、BGPではルートの評価基準としてパス属性を使用する。
  BGPスピーカは他のBGPスピーカとの間で送受信した情報をルーティングテーブルとは別にBGPテーブルに格納する。 複数のBGPスピーカから同じルートを受信する場合もあるため、BGPテーブルに登録されているルートは必ずしも最適な経路だけではない。 BGPテーブルから最適な経路を選択し、ルーティングテーブルに注入するためにパス属性を使用する。
  
  
• BGP パス属性の分類
  
  
  1. 周知(Well-Known)・オプション(Optinal)
     全てのBGPスピーカが必ずサポートすべきものかオプションか。
     
     
  2. 強制(Mandatory)・任意(Discretionary)
     BGP UPDATEメッセージに必ず含める必要があるかないか。
     
     
  3. 通過(Transitive)・非通過(Nontransitive)
     他のBGPスピーカに伝える必要があるかないか。
     
     
  4. 組み合わせ
     Well-KnownかOptionalかで2通りに分かれる。
     

     属性	分類
     Well-Known	Mandaroty
     	Discretionary
     Optional	Transitive
     	Nontransitive

  
  
  
  
• 属性の分類
  
  
  1. Well-Known Mandatory
     全てのBGPスピーカがサポートしている必要があり、かつ全てのUPDATEメッセージに必ず含める必要がある属性。
     
     Orgin タイプコード:1
     AS_Path タイプコード:2
     Next_Hop タイプコード:3
     
     
     
  2. Well-Known Discretionary
     全てのBGPスピーカがサポートしている必要があるが、それをUPDATEメッセージに含めるかどうかは自由に決めて良い属性。
     
     Local_Preference タイプコード:5
     Atomic_Aggregate タイプコード:6
     
     
     
  3. Optional Transitive
     全てのBGPスピーカがサポートしている必要はないが、自分がサポートしていなくてもその属性がUPDATEメッセージに含まれている場合は、 それをBGPピアに伝える必要がある属性。
     
     Aggregator タイプコード:7
     Community タイプコード:8
     
     
     
  4. Optional Nontransitive
     全てのBGPスピーカがサポートしている必要はなく、BGPピアに伝える必要もない属性。
     
     MED(Multi Exit Discreminator) タイプコード:4
     Originator ID タイプコード:9
     Cluster_List タイプコード:10
     
     
     
• 属性
  
  
  1. Origin属性
     Well-Known Mandatory属性のため全てのBGPスピーカがサポートしている必要があり、 かつ全てのUPDATEメッセージに必ず含める必要がある。
     Origin属性はルートの発生元を示す。発生元(属性値)には以下の3つがある。
     

     属性値	コード(優先度)	意味
     IGP	0	networkコマンドや集約ルートなどルートが発生元AS内部にあることを示す。
     EGP	1	ルートがEGP経由で学習されたことを示す。
     INCOMPLETE	2	ルートが再配布によってBGPに注入されたことを示す。

     
     EGPは現在ではほとんど使用されていないため、Origin属性がEGPになることはまずありえない。
     同一のルートがいくつかの方法で学習された場合は、コードの小さい値が優先される。
     show bgp ipv4 unicast(show ip bgp)コマンドで表示した際、Origin属性がIGPの時は"i"、EGPの時は"e"、INCOMPLETEの時は"?"が表示される。
     
     
  2. AS_Path属性
     Well-Known Mandatory属性のため全てのBGPスピーカがサポートしている必要があり、 かつ全てのUPDATEメッセージに必ず含める必要がある。
     AS_Path属性はルートが通ってきたASのリストで、UPDATEメッセージを他のASへアドバタイズする際は、 AS_Path属性値の先頭に自ASのAS番号を追加してアドバタイズする。ただし、AS番号を追加する場合は、 eBGPピアにアドバタイズする場合だけで、iBGPピアにアドバタイズする際はAS番号は追加しない。
     BGPスピーカは各ルートに関するベストパスについてのみUPDATEメッセージにより他ASへアドバタイズする。 何をもってベストパスと判断するかはベストパス選択アルゴリズムにより決定される。
     
     BGP ベストパス選択アルゴリズムについてはこちら
     
     また、AS_Path属性はベストパス選択アルゴリズムで使用されるだけでなく、ルーティングループの防止にも 使用される。AS Pathリスト中に自ASが存在する場合、ループしていると判断しそのUPDATEメッセージを破棄する。
     
     
     
     
     
  3. Next_Hop属性
     Well-Known Mandatory属性のため全てのBGPスピーカがサポートしている必要があり、 かつ全てのUPDATEメッセージに必ず含める必要がある。
     Next_Hop属性は特定の宛先に到達するためのネクストホップのIPアドレス。
     eBGPの場合、UPDATEメッセージを送出するインタフェースがネクストホップになる。 iBGPの場合、AS内で発信されたルートとeBGPを通してAS内に入ってきたルートでネクストホップは異なる。
     AS内で発信されたルートの場合、ネクストホップはそのルートを発信したルータのIPアドレスになる。
     一方、eBGPを通してAS内に入ってきたルートの場合は、eBGPからアドバタイズされたネクストホップがそのまま iBGPによりAS内を伝搬する。しかし、この場合、eBGPからアドバタイズされたネクストホップへの IP到達性がAS内のルータに確保されていない場合がある。このため、eBGPピアを張るルータはAS内のルータと iBGPピアを張る際に以下のコマンドを使用して明示的にネクストホップを自分自身のIPアドレスに置き換える (この場合、当然、AS内のルータから自分自身へのIP到達性が必要となるため、 AS内においてOSPFなどのIGPにより自分自身のIPアドレスをアドバタイズしておく必要がある)。
     
     

     neighbor iBGPピアのIPアドレス next-hop-self
     

     
     BGP next-hop-selfを使用した構成についてはこちら
     
     
  4. Local_Preference属性
     Well-Known Discretionary属性のため全てのBGPスピーカがサポートしている必要があるが、 UPDATEメッセージに含めるかどうかは任意。
     ローカルな優先度のことで、iBGPピア間だけで交換されAS内部だけで通用する優先度である。
     同一のルートに対して自ASからの出口が複数ある場合、自ASから外部ASへ出ていく際に どの出口(eBGPスピーカ)を使用するかを自AS内で指定するために使用する。
     デフォルト値は100で値が大きいルートが優先される。
     
     BGP Local_Preference属性についてはこちら
     
     
  5. MED(Multi Exit Discriminator)属性
     Optional Nontransitive属性のため全てのBGPスピーカがサポートしている必要はなく、 このUPDATEメッセージを受信した場合にそれを他のBGPピアに伝える必要もない。
     自ASからあるルートに対して他ASへの出口が複数ある場合に、他ASから伝えられたメトリックにより 同一ルートに優劣を付けることができ、自ASはそれに従い特定の出口を使用する。 自ASから他ASへの出口を他ASが指定する際に使用される。
     他ASから伝えられたメトリックを比較するため、自ASと他ASにおいてMED値に関するポリシーを共有する必要がある。
     MED値はshow ip routeでメトリックとして表示される。デフォルトのMED値は0である。
     
     BGP MED属性についてはこちら
     
     このMED値(メトリック値)は、同一のASから伝えられたものだけが比較対象となるが、 複数の異なるASから伝えれたMED値を比較する場合は以下の設定が必要となる。
     
     

     bgp always-compare-med
     

     
     複数の異なるASから伝えれたMED値を比較するため、複数のAS間でのMED値に関するポリシーを共有する必要がある。
     
     BGP always-compare-medについてはこちら
     
     
     
     
     
  6. Community属性
     Optional Transitive属性のため全てのBGPスピーカがサポートしている必要はないが、 UPDATEメッセージに含まれていた場合はそれを他のBGPピアに伝える必要がある。
     Community属性は4バイトの値で、この値に意味を持たせAS内部に限定することなく共有して運用する。
     
     以下の範囲は予約されている。
     
     0x00000000 - 0x0000ffff
     0xffff0000 - 0xffffffff
     
     
     定義済みのCommunity属性は以下のようなものがある。
     

     Community	値	意味
     no-export	0xffffff01	このCommunity値が付与されたルートをeBGPピアにアドバタイズしない。
     no-advertise	0xffffff02	このCommunity値が付与されたルートをiBGPピア、eBGPピアともにアドバタイズしない。
     no-export-subconfed (local-AS)	0xffffff03	このCommunity値が付与されたルートをコンフェデレーション内の他のサブASにアドバタイズしない。
     internet	0x00000000	全てのBGPルータはデフォルトでこのコミュニティに属している。
     gshut	0xffff0000	グレースフルシャットダウンルートのコミュニティ。

     
     予約されている範囲以外は自由に使用可能。
     
     指定方法には以下の方法がある。
     
     10進数
     AA:NN (AA:AS番号、NN:任意の2バイトの数値)
     
     Cisco IOSはデフォルトで10進数を使用するため、AA:NNの形式を使用する場合は、 以下のコマンドをグローバルコンフィグレーションモードで設定する必要がある。
     
     

     ip bgp-community new-format
     

     
     BGP Community属性についてはこちら
     
     
  7. Atomic_Aggregate属性
     Well-Known Discretionary属性のため全てのBGPスピーカがサポートしている必要があるが、 UPDATEメッセージに含めるかどうかは任意。
     BGPスピーカはルートをアドバタイズする際、集約することができるが、 異なる属性を持つルートを集約すると属性の情報が失われる可能性がある。
     UPDATEメッセージを転送する途中で情報の一部が失われてしまった際にAtomic_Aggregate属性を使ってそのことを示す。
     Atomic_Aggregate属性はアトミックに集約されたものであることを明示するだけであるため、長さが0で属性値を持たない。
     aggregate-addressコマンドをas-setオプションを指定せずに設定した場合にこの属性が設定される。 as-setオプションを指定しない場合、集約前のASがAS Pathに含まれなくなる。
     
     
  8. Aggregator属性
     Optional Transitive属性のため全てのBGPスピーカがサポートしている必要はないが、 UPDATEメッセージに含まれていた場合はそれを他のBGPピアに伝える必要がある。
     ルートの集約を行った際に集約ルートを生成したASとルータIDを示す。
     
     show command 表示例

     R22#sh bgp ipv4 unicast 30.0.0.0
     BGP routing table entry for 30.0.0.0/8, version 20
     Paths: (1 available, best #1, table default)
       Not advertised to any peer
       Refresh Epoch 1
       10 30, (aggregated by 30 30.0.255.1)  ---> Aggregator属性 (AS30の30.0.255.1で集約)
         20.0.255.1 (metric 2) from 20.0.255.1 (20.0.255.1)
           Origin IGP, metric 0, localpref 100, valid, internal, atomic-aggregate, best  ---> Atomic_Aggregate属性
     

     BGP Aomic_Aggregate属性とAggregator属性についてはこちら